転換性障害の治し方-患者による説明-

「転換性障害」って聞いたことありますか?
私の心の病気の本当の名前は、「転換性障害」または「変換症」というものです。説明が難しいので、みんなには「うつ病」と言っていますが、実は、うつ病とは違います。

医学的な説明は、こちらをご覧ください。
https://mentalsupli.com/disease/disease-anxiety/somatoform/conversion/

私の場合は、子供の頃から、嫌なことを「いや」と言えずに、無理をしてやる癖がついてしまった結果、20代半ばにこの病気を発症しました。何でも我慢をしてやっているうちに、無理をすることが当たり前になっていました。長い間、こういう生き方をしていたので、自分自身の本当の気持ちや、体の疲れに対する感覚がマヒして、心身のSOSに気づくことが出来なくなってしまいました。

嫌なことを、無理をしてやっていても、そのことに気づかないのです。

特に、私は先天性弱視なので、無理をして、他の子どもより頑張れば、ふつうの子と同じことが出来る、という事実もあり、自分で自分に無理をさせていた部分もあります。若いうちは、多少無理をしても大丈夫だったのですが、25才あたりから、とても疲れやすくなり、不眠と気分が落ち込みがひどくなりました。

ある日、道を歩いていて、突然、手と足がマヒして倒れました。ひどい息苦しさに襲われました。初めて経験した「過呼吸発作」でした。
当時はベルリンで音楽療法の勉強をしていたのですが、授業に出席している時も息苦しくなるので、椅子に座っていることが出来ず、床にうずくまって授業を受けました。

症状がパニック障害に似ているので、10年以上もの間、パニック障害と勘違いをされていました。でも、パニック障害にしては、不安感がまったく無いので、変だなぁと思っていました。ドイツで2年間、認知行動療法を受け、帰国後しばらくは内科で安定剤を処方してもらって、しのいでいたのですが、32才の時、抑うつや希死念慮など、うつ病の症状も加わって手に負えなくなり、心療内科で抗うつ剤治療を開始しました。

現在40才です。仕事を辞め、ストレスを減らしたこともあり、うつ病の症状は随分と良くなりました。しかし、転換性障害の方は、一筋縄ではいきません。今でもストレスを受けると、こういう発作が起きます。抗うつ剤も飲み続けています。

私は、頑張ることは得意です。無理をすることも得意です。中学高校生の頃は、毎朝お腹が痛くなりつつ、元気に登校していました。数時間経てば治ることが分かっていたので、親にさえ言いませんでした。
発作には慣れているので、まったく怖くありません。倒れても、しばらく横になっていれば、また歩けるようになるので、人通りの少ない場所で倒れた時は、路上に横になって回復を待ちました。
でも、一度だけ、駅で倒れて、救急車で病院に運ばれました。その時は、手も足も、ぜんぜん動かなくなってしまったので、駅員さんが救急車を呼びました。その時のストレスの原因は、体調が悪いのに、出張の予定を入れたことでした。結局、出張をキャンセルしました。


上のリンクの医学的説明の中に、「疾病利得」という言葉が出てきます。
具合が悪くなると周囲の人に気遣ってもらえるというメリットが、症状を引き起こす原因の一つであると、説明されています。人によるかも知れませんが、私は、人に気を遣われるのが大嫌いです。ですから、講師として働いていた時には、授業が終わって受講生がみんな帰るまで必死になって我慢し、一人になった途端にソファに倒れ込みました。
現在は、今までの反動で、少しでもストレスを感じると、体が大反乱を起こします。

私は、早く、また以前のように元気になりたいです!

しかし、今は、何かを計画すると体が拒否反応を起こして、具合が悪くなります。その結果、「当日ドタキャンOK」の約束しか、できません。
一番ハードルが高いのが、キャンプなど、団体行動に参加することです。いつ何時、発作が起きて、他の人たちに迷惑をかけるか分からないからです。

さて、治療法ですが、長年の経験から分かったことを、書いてみたいと思います。この障害を持っている方や、そのご家族にとって、少しでも参考になれば幸いです。

1.この病気は基本的に、本人が自分で治療するしかないと私は思っています

もちろん、精神科医または心療内科医の助言や、適切な薬の処方、場合によっては心理療法などが必要でしょう。しかし、「誰から何と言われようと自分の気持ちを最優先する」という訓練が、この病気の克服には欠かせません。

2.自分のニーズを満たしてくれる環境以外には、身を置かない

例えば、参加したい合宿があったとします。もし、その合宿が行われる施設をよく知っていて、一人きりになれる部屋や、自分で温度調節のできるエアコンや、人に気を遣わなくて済むシャワーやトイレなど、自分の健康維持に必要なものが手に入ることが分かっていれば、ハードルは低くなります。(ここに挙げた例は私にとって必要なものです。人によってニーズは違うでしょう。) また、具合が悪くなったら抜け出して休んでも、理解してくれる人たちと一緒に参加するかどうか、という点も重要です。

こうして見ると、今の私にとっては、一人で、海外の知っている街の知っているペンションに泊まることより、国内の、バスで数時間で着く、行ったことのない宿泊施設で行われる合宿に参加する方が、ずっとハードルが高いです。

3.やりたいと思うことは、無理なく実行できる方法を考えて、なるべく積極的にやってみる

例えば先ほどの合宿の例で考えると、みんなと一緒にその施設に泊まるのは無理。でも、近くにある別の宿泊施設を自分で予約して、夜はそこへ帰るようにする、という方法が可能な場合もありますね。

4.自分で自分を非難しない。人にも非難を許さない

「そんな贅沢を言って。」 「少しは我慢するべきだ。」 「不安を克服することが大事だ。」「どんな場所でも泊まれるように体を鍛えるべきだ。」 「わがままだ。」 など、批判されることもあるかも知れません。


今、私は次の言葉を、自分自身に対しても、言います。
「あなたは今まで、さんざん我慢をし、努力どころか、無理に無理を重ねた結果、病気になったのです。また同じことを繰り返すのですか?」

5.最後に、転換性障害の人にどう接したら良いか

「気を遣わない」ことが大切だと思います。理解はする。でも、あえて気を遣うことはしない。なぜなら、転換性障害を持った人は、自分自身で自分のニーズを認識し、人に伝える訓練をしなくてはならないからです。
例えば、仕事を頼む時、「この仕事は一度引き受けたらキャンセルできません。やりますか?」とか、「決められた日に出勤する仕事と、家でやって期限までに提出する仕事があります。前者の給料は○○で、後者は○○です。どちらかをやりますか?」、といった具合に、具体的な条件を淡々と知らせるだけで十分です。感情的にならないことが大切です。引き受けるかどうかは当人が決めること。転換性障害の人は、相手の感情に弱いのです。ついつい、自分を犠牲にしてしまう。

以上、私が現時点で言えることを書きました。

最初は体と心の要求が多くても、一つ、また一つと「無理なくできる」という経験を重ねてゆくことで、自信がつき、出来ることも増えてゆくのではないかな、と思います。
体と心が、「いつでも必ず僕らのニーズを満たしてもらえる」と認識してくれれば、反乱を起こして症状を出すことも、なくなってゆくと、私は信じています。

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