詩「できないんだ」

ある日
とうとうしびれをきらして
わたしは彼に言った

……

あなたは
どうしてもう少し
大人になれないの

あの人はきらいだの
あいつはぼくをバカにしているだの
やつらはクズだの

そういうことは思っても
口に出すものではないでしょう

大人なのだから
もっと自制して
相手を尊重することができなくて
どうするの

……

彼はじっと
わたしの言葉を
聞いていた

長い沈黙の後
彼はやっと
口を開いた

……

ぼく
大人になれないんだ
そういうふうに
できないんだ

それが
悲しい

……

彼のかすれた声が
あたりの空気に
溶けて
消えていった

後に残った
静けさは
涙みたいに
熱くて
やわらかかった

わたしは
熱くやわらかな静寂が
心の深みのそのまた深みに
触れるのを感じた

あぁ
こんなに大きく
心の扉を開いて
生きていたのか
この人は

こんなにまっすぐに
ありとあらゆるものごとを
受けとめて
生きてきたのか
この人は

わたしには
そんな痛くて怖いこと
とてもできない

ふいに
尊敬の念と
愛おしさが
こみあげてきた

思わず
彼の背に腕を回して
抱きよせた

……

ごめんね
いいよ
そのままで

そのままで
愛しているよ

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